【台湾原住民族を学ぼう④】タイヤル族の知られざる魅力! 体験型スポット4選

台湾原住民

本シリーズ「台湾原住民族を学ぼう」では、台湾に暮らす原住民族を部族ごとに詳しく紹介し、台湾の多彩で奥深い魅力をより多くの方に伝えることを目指しています。

今回紹介するのは、現在台湾政府に認定されている16の原住民族の中で3 番目に人口が多い「泰雅族(下記、タイヤル族)」です。

日本でも活躍するタイヤル族出身の著名人としては、北海道日本ハムファイターズのグーリン・ルェヤン(古林 睿煬)選手が挙げられます。また、長年にわたり活躍する台湾出身の歌手でマルチタレントのビビアン・スー(徐 若瑄)も、タイヤル族と客家人の血を引くハーフです。

このように、台湾の原住民族にはスポーツ選手や歌手をはじめ、美男美女が多いことでも知られていますが、タイヤル族もその例外ではありません。

そんなタイヤル族の基礎知識をはじめ、知られざる伝統の魅力、タイヤル族の文化を体験できるおすすめのスポットを紹介します!

▶まずは「台湾原住民族の基礎知識」を学ぼう!

台湾原住民族「タイヤル族」を学ぼう

16の原住民族の分布図に日本語追記(出典:中華民國原住民知識經濟發展協會)

1.人口と分布

台湾原住民族委員会の統計によると、2025年1月時点で台湾原住民族の総人口は約61万人。これは台湾総人口の約2.6%にあたります。
現在政府に認定されている16の原住民族のうち、アミ族、パイワン族に次ぎ、3番目に人口の多いのがタイヤル族で、その数は約9万5千人にのぼります。

タイヤル族の多くは台湾の北部から中部にかけての山岳地帯を中心に暮らしています。
原住民族の中で分布の範囲が最も広く、北部の新北市(烏来区など)、桃園市(復興区)、宜蘭県(南澳郷、大同郷)をはじめ、中部の新竹県(五峰郷、尖石郷)、苗栗県(泰安郷)、台中市(和平区)、南投県(仁愛郷)、さらに東部の花蓮県や台東県の一部にも移住したタイヤル族のコミュニティが存在します。

そのほか、原住民族全体に言えることですが、近年では故郷を離れて台北などの都市部で暮らす人も増えています。

2.社会構造・伝統文化

◆社会構造
タイヤル族では、父系社会の色が濃く、家族の姓、財産や名誉は父方の血筋を通じて受け継がれます。
その一方で、女性も機織りを通して社会的に重要な役割を持ちながら、家族同士が協力し合い、狩猟や農作業、儀式などの共同作業を通じてコミュニティ全体を支えています。

◆イレズミ文化
タイヤル族の伝統文化の中で、特に象徴的なのが顔や体に施されるイレズミです。
「紋面(もんめん)」と呼ばれるこの習慣は、かつて男女ともに成人の証として顔にイレズミを入れるものでした。
男性は狩猟や首狩りの功績を示し、女性は織物の技術を習得した証ともされていました。見た目が美しいだけでなく、魔除けの力があると信じられており、顔だけでなく胸、腹、手足にも施されることがありました。
長年受け継がれてきたこの伝統は、日本統治時代に禁止され終止符が打たれたものの、紋面はタイヤル族の文化と誇りを象徴する重要な存在として、近年その価値が再認識されています。

◆伝統的な信仰や禁忌
タイヤル族には、「gaga(ガガ)」と呼ばれる祖先の教えがあります。
これは、部落ごとに受け継がれてきた社会や道徳のルールで、家族やコミュニティの結束、自然との共生を大切にする考え方です。
「gaga」を守ることで健康や豊作に恵まれるとされており、もし誰かがこのルールを破ると、コミュニティ全体に災いが及ぶと信じられていました。

◆お酒文化
タイヤル族の間で、祭事やゲストをもてなす際によく飲まれるアワ(粟)酒。
日本酒が苦手な筆者も、このアワ酒は大好きなお酒の一つで、特にスパークリングはすっきりとした甘みがあり、とにかく飲みやすい……。(それゆえにある意味、キケンなお酒です。笑)

そして、微笑ましい光景だと感じたのが、兄弟姉妹や親友、家族同士が頬を寄せ合いながらお酒を飲む姿。これは、お互いの親密さを示すものであり、タイヤル族の深い絆を表すそうです。実際に飲んだ方の感想によると、この状態で一滴もこぼさずに飲むのは想像以上に難しいそうです。

3.言語

タイヤル族が話す言葉は「タイヤル語」と呼ばれ、オーストロネシア語族に属します。
県をまたぐ広い地域に暮らすパイワン族の中には複数の方言があります。
また、「タイヤル族はタイヤル語だけを話すの?」と思う人も多いかもしれませんが、現在では年配の世代は日本語も使う一方、若い世代は公用語として中国語(台湾華語)も日常的に使用しています。

中でも特に興味深いのが、日本統治時代に生まれた日本語とタイヤル語が混ざった「宜蘭クレオール」という言語が今も特定の地域で使われていること。
日本語の単語が次々と聞こえてくるのに、あきらかに日本語ではない不思議な言語——。
実際にタイヤル族の方がこの「宜蘭クレオール」を話す動画を見たときは、全身に衝撃が走り、思わずより目になりながら何度も再生してしまいました。


宜蘭クレオールを使用する4つの村の住民たちは、もともとは宜蘭県南澳郷の山奥にそれぞれ分かれて住んでいた人たちである。かつて山の中で狩猟採集を中心とした生活をしていた。その後台湾総督府は、1910年代から宜蘭地域においても移住政策を推進した。山奥で暮らしていた人々を、支配しやすくするために、交通の便のいいところに集住させるという政策である。その過程で、同じ地区にありながらも個別に生活していたアタヤル人とセデック人が新たな集落にまとめられたのである。(— 簡月真・真田信治(2011)「台湾の宜蘭クレオールにおける否定辞―『ナイ』と『ン』の変容をめぐって―」『言語研究』より)

このように、皮肉にも日本統治時代の政策により生まれ今もなお進化し続ける「宜蘭クレオール」。話者にとっては自身のアイデンティティの一部として考えられる中、後世にどう伝承していくのかが課題となっています。


九族文化村でのタイヤル族のショーの様子(筆者撮影)

4.祭典

タイヤル族の年間儀式として行われているのが、「播種祭(種まき祭)」「収穫祭」「祖霊祭」です。

◆播種祭
3月頃、頭目と長老が開墾地に赴き、播種の儀式を執り行います。この儀式では、小米(粟)の順調な発芽と豊作を祈願します。

◆収穫祭
小米(粟)が成熟する時期に行われる祭りで、収穫後には「倉入れの儀式」も執り行われます。これは、収穫した穀物を倉に納め、祖霊や神々に感謝を捧げる重要な儀式です。

◆祖霊祭
8月下旬頃に行われる祭りで、祖先の霊を祀る重要な儀式です。祖霊は人の一生の禍福(災いと幸せ)を決める力を持つと考えられており、祖霊を祀ることで一族全員の安泰と五穀豊穣をもたらしてくれると信じられています。

中でも最も重要であり、また禁忌が最も多いのが「播種祭」です。その理由は、穀類が主要な農作物であり、もし豊かに実らなければ一年の生計に重大な影響を及ぼすためです。

播種祭には次のような多くの禁忌があり、それぞれに穀物の成長や豊作への願いが込められています。
・祭りの前に火をおこした後、その火種を絶やしてはならない。
・イネを枯らさないよう、草を刈ってはならない。
・儀式が終わり、その場を離れるときには振り返ってはならない。

また、供え物には、酒、アワのケーキ、農作物、果物、魚介が用いられます。しかし、イノシシの肉を漬けたものだけは供えることができません。これは伝説に由来しており、タイヤル族の祖先が暮らすあの世ではイノシシが狩猟犬の役割を果たしているとされています。そのため、イノシシを殺すことは、祖先が狩りをできなくなることを意味し、祖霊の怒りを招いてしまうと信じられているのです。
このようなことからも、タイヤル族が祖先を深く敬い、孝行の精神を大切にしていることがうかがえます。

◆注意点
特にタイヤル族は台湾での分布の範囲が最も広く、それぞれの地域によって厳格なルールや禁忌事項が存在します。一般の方が参加する際は、地元の文化や風習を尊重することが何より大切です。


5.伝統衣装と楽器

タイヤル族は、台湾原住民族の中でも特に織物技術に優れていることで知られています。
かつての「紋面」においても、女性が織物の技術を習得した証としてイレズミが施されていたように、織物の技術は重要視されており、そのレベルによって嫁ぎ先が決まることもあったと言われています。

◆伝統的な織物

タイヤル族が編む生地の模様、線、色の組み合わせは芸術的であり、独自の美意識が表れています。
これらは主にカラムシ(苧麻)を織った麻布で作られていました。植え付けから収穫、乾燥、繊維を縒り紡ぐ作業、巻き取り、煮沸、整経、そして水平背帯の織機を使った織布まで、すべての工程を女性たちが担っていました。

タイヤル族の織物の最大の特徴は、鮮やかな色使いです。
特に赤と白を基調とした「ひし形模様」がよく見られますが、これはご先祖様の目を表しており、魔除けの効果があるとされています。こうした織物は、衣服だけでなく首飾りやバンダナなど、さまざまな用途で使われ、生活の中に深く根付いていました。

◆口琴
口琴と呼ばれる楽器は、タイヤル族にとって重要な伝達手段です。 仲間に敵の侵入を知らせたり、大自然の中で祖先の霊に呼び掛けたり。 また、祭りや結婚式、愛の言葉を交わす際にも用いられます。
ブィーンブィーンという耳に残る独特の周波数の音色が特徴的なので、ぜひこちらの映像で一度聞いてみてください。

口簧琴

6.タイヤル族出身の有名人

冒頭でも触れたとおり、台湾原住民族出身の著名歌手やスポーツ選手は数多く、音楽やスポーツの才能を持つ人が多いことでも知られています。また、堀が深く目鼻立ちがはっきりしている顔の方が多いことから、美男美女が多いとも言われ、多彩な才能を発揮する人も少なくありあません。

古林 睿煬(グーリン・ルェヤン)出典:Wikipedia

◆古林 睿煬(グーリン・ルェヤン)
台湾の台中市出身のタイヤル族のプロ野球選手。北海道日本ハムファイターズ所属。台湾での愛称は「国民金孫」や「火球男」とも。2025年、シーズン開幕前の2月3日に第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)予選の台湾代表に選出され、今後の活躍にも期待大です!

ビビアン・スー(徐 若瑄) 出典:Wikipedia

◆ ビビアン・スー(徐 若瑄)
台湾出身の歌手兼マルチタレントで、タイヤル族と客家人のハーフ。
1990年代に日本で「ブラックビスケッツ」のメンバーとして大ブレイクし、「Timing(タイミング)」などの歴史的ヒット曲を生み出しました。日本での活動後は台湾を拠点に映画や音楽で活躍し、シンガーソングライターとしても才能を発揮。現在もアジア圏で幅広く活躍し、長年にわたり人気を維持しています。
まるで時が止まったかと思うほどの、昔と変わらないキュートなルックスと流暢な日本語にも注目です。

周 渝民 出典:Wikipedia

◆周 渝民(ヴィック・チョウ)
母親がタイヤル族のハーフの人気俳優。『流星花園〜花より男子〜』(花沢類役)にて俳優デビュー。その後、『流星花園〜花より男子〜』で共演した3人と共に台湾の人気アイドルグループ『F4』を結成。その華やかな美貌と優れた演技力で、今もなお多くのファンを魅了し続けています。

7.おすすめ体験スポット&お店

さいごに、タイヤル族の文化にディープに触れるために訪れておきたい体験スポットや工房を4つ紹介します!

出典:泰雅渡仮村 公式ウェブサイト

◆泰雅渡仮村(泰雅渡假村)
南投県にあるタイヤル族文化を愛してやまない人々によって建設された体験型スポット。園内では、原住民舞踊を楽しむことができるほか、「萬大社住屋」「巴拉社住屋」「泰雅族部落入り口の展望台」などの建築物が、専門家の監修のもと再建されています。

泰雅渡仮村 出典:公式ウェブサイト

見どころ
・山地文物館:タイヤル族の文化や歴史をじっくり学ぶことのできる施設
・タイヤル勇士像:勇敢なタイヤル族の戦士を讃えたモニュメント
・旧隧道:タイヤル族の歴史を感じさせるトンネル

園内の随所にタイヤル族の文化的特徴が散りばめられており、タイヤル族の文化や習慣を深く理解できるよう工夫されています。
疲れたときには、公園内の温泉にゆっくり浸かって、大自然に囲まれながら物思いにふけることもできます。

アクセス情報
交通手段については、公式ウェブサイトをご確認ください。

原住民の文化をたっぷり体験!烏来観光(台北発)出典:KKday

◆烏来でタイヤル族の文化を体験!
原住民文化を味わえるスポットは、アクセス困難な奥地にあったりするものです。興味はあるけどスマホを片手に一人で向かうのはちょっと不安……という方には、原住民文化を体験できるツアー(日本語予約OK)もおすすめ。
タイヤル族の故郷である烏来の観光ツアーでは、原住民の伝統衣装を着て写真を撮り、タイヤル族の踊りを鑑賞、伝統的なブレスレットの手織り体験に、ここでしか出逢えないタイヤル族風の料理を昼食までついています。

さらにトロッコに乗り、人気の観光地でもある烏来老街をゆっくり散策。足湯の体験や、タイヤル民族博物館で原住民の歴史を学んだり、歴史ある大きなつり橋の上で壮大な景色を見て癒しのひと時を味わえます。

原住民の文化をたっぷり体験!烏来観光(台北発)


苗栗にあるタイヤル族の工房「英雄工作室」(筆者撮影)

◆ディープな織布作品に出会える「英雄工作室」
苗栗の山奥にあるタイヤル族の伝統布工房。
筆者自身、台湾原住民の着ている服飾に惹かれ原住民文化に興味を持ったことからも、どうしても「工作室」「工房」といった場所を見つけると足を運んでみたくなり……、ついに行って来ました。

布を織るところからすべて手作りだなんて信じられない……

工房が空いていれば、一般の観光客でも快く中に入れてもらうことができます。中に入ると壁や棚一面に織物で作られた作品がぎっしり。ポーチやティッシュケースのような小物から、マネキンが着ている衣装まで様々な作品が展示されており、ほしいものを指さして尋ねれば値段を教えてくれ購入することもできます。

値段は書いていませんが、お買い物もできます♪

この日はちょうど印鑑ケースを作っているところで、壁の作品をウキウキしながら眺めていると、「今できたよ! 印鑑いれるやつ!」と言われたので、記念に持ち帰り。実際に作った人の手からその作品を受け取ることは、大量生産の商品では決して味わうことのできない喜びです。
英雄工作室(苗栗)公式Facebook


「星のやグーグァン」出典:SocialWire「NEWSCAST」

◆「星のやグーグァン」で織物体験!
台中にある温泉リゾート「星のやグーグァン」では、タイヤル族の織物文化を体験できるアクティビティに参加することができます。タイヤル族の伝統工芸である織物技術や、図案に込められた意味などを学びながら、先生と一緒に卓上型の機織り機を使ってオリジナルのボトルホルダーを作ることができます。
星のやグーグァン 公式サイト


以上、どのスポットもタイヤル族の文化を体験するのにぜひ訪れておきたい場所です。

ただし、こういった工房などは辺鄙な場所にあることも多く公共交通機関ではアクセスしづらいことも多いため、車での移動もおすすめです。あらかじめチャーターやタクシーを予約しておくか、バスや電車を利用される場合は、本数が少ないため帰りの時刻も調べておくのがベターです。車で自走したいというチャレンジャーな方は、拙著「台湾を自動車で巡る。台湾レンタカー利用完全ガイド」(なりなれ社)もおすすめです!


まだまだ知られざる台湾原住民族の世界。前回のアミ族、パイワン族に続き、今回はタイヤル族について紹介しました。
次回は、タイヤル族の親戚にあたるとも言われている太魯閣族(タロコ族)賽德克族(セデック族)について順番に紹介していく予定です。

台湾原住民族のことを学び、一味も二味も違った台湾の奥深い魅力を、ぜひあなた自身の目で、耳で、味わってみてください!

「台湾原住民族の基礎知識」をチェック


筆者プロフィール

加賀ま波(MAHA)
台湾大好きライター│ハンドメイド作家
著書に『台湾を自動車で巡る。台湾レンタカー利用完全ガイド』(なりなれ社/KKday・budget協賛)、『慢慢來 あの日の台湾210days』(想創台湾)がある。

2011年、はじめての台湾旅行中に東日本大震災が発生。台湾から見た日本の情景と、自分自身の台湾への無知さとの乖離に違和感を感じ「台湾をもっと知りたい」と思うようになる。同年、嘉義県大林のボランティア活動に参加し、台湾人の温かいおもてなしとキテレツな文化に触れ、帰国後もずっと台湾のことが頭から離れなくなる。その後も渡台を繰り返し、2021年のコロナ禍にワーキングホリデーと留学の夢を叶える。

現在は、美麗(メイリー)!台湾の専属ライターとして、取材執筆、SNS運営、イベント運営などを担当。個人の活動では「想創Taiwan」というブランドを展開、原住民レースなどでオリジナル雑貨を創作し日本各地の台湾関連イベントで販売。そんな中、在日台湾原住民連合会のダンスチームに誘われ、全身全霊で原住民文化を学び中。
HP・通販Instagram


【参考サイト】
■中華民國原住民知識經濟發展協會
http://www.twedance.org/aboriginal00.aspx
■原住民族族委員會
https://www.cip.gov.tw/zh-tw/index.html
■台北駐日経済文化代表処
https://www.roc-taiwan.org/jp_ja/post/202.html
■台東県政府 DiscoverTaitung
https://discover.taitung.gov.tw/ja/
■東部海岸国家風景区
https://www.eastcoast-nsa.gov.tw/ja/travel/culture
■台湾原住民族との交流会
https://www.ftip-japan.org/people/p03
■交通部観光署茂林国家風景区管理処
https://theme.maolin-nsa.gov.tw/wedding2023/jp/page-1.html
■中華民国(台湾)外交部「TAIWAN TODAY」https://jp.taiwantoday.tw/ニュース/文化・社会/74733/gdpr
■看雜誌「泰安鄉 揪好玩!體驗泰雅族文化之美」
https://www.watchinese.com/article/2017/23223

※記事掲載の情報はすべて執筆時の情報に基づきます。開催・営業時間などの情報については各公式サイトで最新情報をご確認ください

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