2024年の世界野球で台湾代表が日本を破り、優勝。この快挙に台湾全土が歓喜に包まれる中、驚くべき事実が明らかに。なんと、代表選手28名のうち13名が原住民族の出身だったのです。
これをきっかけに、スポーツを通じて台湾の多様なルーツに注目が集まり、台湾原住民族の存在が広く認識されることとなりました。
本シリーズ「台湾原住民族を学ぼう」では、台湾に暮らす原住民族を部族ごとに詳しく紹介し、台湾の多彩で奥深い魅力をより多くの方に知っていただくことを目指しています。
今回紹介するのは、台湾政府に認定された16の原住民族の中で最も人口が多い「阿美族(下記、アミ族)」です。
アミ族の文化や伝統をはじめ、観光客でも気軽にアミ族の文化を味わえる体験スポットも紹介します!
▶まずは「台湾原住民族の基礎知識」を学ぼう!
アミ族の多くは花蓮県や台東県の東部エリア、特に縦谷や海岸地域に多く暮らしています。しかし、近年では台北や高雄といった都市部で暮らす人も増えています。
ちなみに、東海岸全体の総人口約5万人のうち、アミ族は約3万人を占めています。そのため、この地域ではアミ族の伝統や文化を身近に体感できる機会が特に豊富です。
2.生活文化
アミ族の伝統的な集落は、500人から1,000人規模と、他の台湾原住民族の集落に比べて大規模なことが特徴です。
主にコメやラッキョウの栽培といった農業、ブタなどの家畜飼育、海岸部では漁業を生活の基盤としています。
中でも特筆すべきは、アミ族の伝統的な社会が母系社会である点です。親族内では女性の地位が高く、男性はそのサポート役を担います。一方で、集落全体の組織運営は男性が主導。年齢階級制という独特な仕組みで集落の組織を構築し、行政や発展に関わる公務を担っています。こうした男女の役割分担が、アミ族ならではの文化を形作っています。
3.言語
アミ族が話す言葉は「アミ語」(パンツァ語、パンツァー語、パンツァハ語)と呼ばれ、オーストロネシア語族に属します。
この言語は地域ごとにさらに細分化されており、南勢アミ語(北部アミ語)、秀姑巒アミ語(中部アミ語)、海岸アミ語、馬蘭アミ語、恆春アミ語など、それぞれ単語やアクセントに違いがあります。
アミ語には固有の文字がないため、「私=kako」「家族=paro」のように音をアルファベットで表記します。
興味深い点として、アミ語は抽象的な表現が少ないことが挙げられます。たとえば、数字の「ゼロ」に相当する表現や、「両親」を指す単語がありません。
中でも驚いたことは、「ありがとう」を意味する言葉が存在しないことです。「アライ(alai)」という言葉が使われることもありますが、これは「ありがとう」だけを意味するものではなく、挨拶として使われることもあります。この背景には、お互いに助け合うことが当然とされるアミ族の文化が反映されています。「ありがとう」という言葉が必要ないほど自然に助け合う社会の在り方を象徴しているとも言えるでしょう。
また、「アミ族はアミ語だけを話すの?」と思う人も多いかもしれませんが、現在では年配の世代は日本語も使う一方、若い世代は公用語として中国語(台湾華語)も日常的に使用しています。
4.祭典とイベント
アミ族にとって最も重要な伝統祭典が「豊年祭(Ilisin)」です。
このお祭りは毎年7月から8月頃に開催され、歌や踊りを通じて祖先への敬意を表し、部族の結束や来年の豊作、厄災からの救済を祈ります。
豊年祭は、農耕社会時代にアワの豊作を祝う儀式として始まり、現在も一年で最も重要な祭典として地域ごとに受け継がれています。そのため、この時期になると地元を離れているアミ族の人々も、休暇を取って帰省し、祭りに参加します。
この豊年祭で一番重要なのは、歌と踊り。
男女で異なる役割があり、男性による祖先崇拝の儀式には女性の立ち入りが禁止されていたり、参加者は事前に身を清める必要があるなど、厳格なルールや禁忌事項が存在します。一般の方が参加する際は、地元の文化や風習を尊重することが何より大切です。
地域ごとに開催される豊年祭は、アクセスの面でややハードルが高いこともありますが、花蓮市内で開催されるイベント「花蓮県原住民族連合豊年祭」は初心者にもおすすめです。
花蓮県政府が主催するこの大規模なイベントは、毎年3日間、花蓮県徳興運動場横の大草原で開催されます。ステージでは、花蓮に暮らすアミ族、サキザヤ族、タロコ族、セデック族、ブヌン族、クバラン族の6つの民族が一堂に会し、歌や踊りを披露します。
さらに、会場には台湾グルメや原住民料理、手作りの工芸品などが並ぶ屋台も充実しており、毎年多くの観光客でにぎわいます。
台湾原住民族の豊かな文化を全身で味わえる「花蓮県原住民族連合豊年祭」は、一見の価値アリ。ぜひ一度、その魅力を現地で体感してみてください!
5.伝統衣装
同じアミ族でも、「北アミ(花蓮)」と「南アミ(台東)」では衣装の配色や模様がまったく異なります。
いずれも布やビーズを使った手作りの装飾を何重にも身にまとい、手首や足首には鈴をつけて踊るスタイルが共通しています。
筆者自身、その煌びやかな台湾原住民族の衣装に魅了されたことがきっかけで原住民文化に興味を持ち始めました。現在は在日台湾原住民連合会のダンスチームにも所属しており、これまでに「北アミ」「南アミ」両方の衣装を着て踊った経験があります。それにしても真夏の炎天下、何重にも重なる分厚い衣装(毛糸で編んだ飾りまで!)をずっしりと身にまとい踊り続けた結果、おそらく人生史上最多の汗をかいたと記憶していますが、チームのみなさんが清々しい笑顔で(それも強めのお酒をたしなみつつ)楽しそうに踊り続ける姿には驚きました。
6.アミ族出身の有名人
ビビアン・スー(タイヤル族のハーフ)やアーメイ(プユマ族)をはじめ、台湾原住民族出身の著名歌手は数多く、音楽の才能を持つ人が多いことでも知られています。
◆歌手:舒米恩(スミン/Suming)
アミ族を代表する著名歌手と言えば、舒米恩(スミン/Suming)。筆者自身も大ファンで、今年2月に日本で開催された単独ライブにも参加してきました!
スミンの輝かしいキャリアは枚挙にいとまがありません。第一回金音奨で最優秀アルバム賞、最優秀ライヴパフォーマンス賞を受賞し、第22回金曲奨では最優秀原住民アルバム賞を獲得。また、2013年から台湾原住民音楽祭「アミス音楽祭」を主催し、日本をはじめ世界中の音楽祭にも出演。原住民族の文化と台湾の魅力を世界に発信し続けています。
さらに、作曲家として多くの歌手に楽曲を提供するほか、ダンサー、画家、伝統工芸師、俳優としても活躍するマルチアーティスト。その活動は、アミ族の文化的アイデンティティを広める重要な役割を果たしています。
◆野球選手:陽岱鋼(ヤン・ダイガン/よう だいかん)
身体能力に優れる原住民族は、音楽だけでなくスポーツ界、特に野球でも大きな存在感を放っています。
アミ族は台湾プロ野球選手の中でも特に多く、今年の世界野球大会では優勝チーム28名中13名が原住民、そのうち9名がアミ族出身でした。
7.グルメスポットと体験ツアー
◆原住民グルメの宝庫「東大門夜市 – 原住民族一條街」
台湾原住民族のグルメを手軽に味わいたいなら、花蓮にある「東大門夜市 – 原住民族一條街」がおすすめです。
▶「花蓮おすすめスポット7選」も合わせてチェック!
東大門夜市は、2015年に花蓮市近郊の4つの夜市が統合され、台湾東部最大級の夜市として生まれ変わりました。そのため、夜市内は福町夜市、自強夜市、各省一條街、原住民族一條街の4つのエリアに分かれており、屋台の数はなんと約400軒! その広さは台北の夜市とは比べものになりません。
原住民族一條街では、山菜や猪肉を使った伝統料理、カタツムリをお酒で炒めた珍しいグルメなど、原住民ならではのグルメが味わえます。
また、夜市には食べ物だけでなく、大人も子どもも楽しめる屋台ゲーム、原住民族の工芸品やお土産品、占いブースなども充実。さらに、路上パフォーマンスや歌手によるステージイベントも随時開催されています。運が良ければ、アミ族の方による美しい歌声や伝統楽器の演奏に出会えるかもしれません。
「食べるだけじゃ物足りない!」「自分で原住民族料理を作ってみたい!」そんな方にぴったりなのが、花蓮の「原住民族料理体験 佳藍科キッチン」です。
ここでは、花蓮で採れた新鮮な山菜や豚肉、原住民族特有の調味料を使って、プロの原住民族出身の先生が丁寧に料理を教えてくれます。中国語でのレッスンとなりますが初心者でも安心して楽しめる環境なので、旅の思い出作りにもおすすめです!
▶ 予約はこちら:佳藍科キッチン体験
さいごにもう一つ、ぜひ訪れてほしいスポットが「馬羅山ハンター学校」。花蓮市のお隣・吉安市に位置するこの学校では、アミ族の伝統文化を肌で感じられるプログラムを体験できます。
台湾原住民族のことを学び、一味も二味も違った台湾の奥深い魅力を、ぜひあなた自身の目で、耳で、舌で味わってみてください!
▶「台湾原住民族の基礎知識」をチェック!
記事執筆:加賀ま波 (MAHA)
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筆者プロフィール
加賀ま波(MAHA)
台湾大好きライター│ハンドメイド作家
著書に『台湾を自動車で巡る。台湾レンタカー利用完全ガイド』(なりなれ社/KKday・budget協賛)、『慢慢來 あの日の台湾210days』(想創台湾)がある。
2011年、はじめての台湾旅行中に東日本大震災が発生。台湾から見た日本の情景と、自分自身の台湾への無知さとの乖離に違和感を感じ「台湾をもっと知りたい」と思うようになる。同年、嘉義県大林のボランティア活動に参加し、台湾人の温かいおもてなしとキテレツな文化に触れ、帰国後もずっと台湾のことが頭から離れなくなる。その後も渡台を繰り返し、2021年のコロナ禍にワーキングホリデーと留学の夢を叶える。
現在は、美麗(メイリー)!台湾の専属ライターとして、取材執筆、SNS運営、イベント運営などを担当。個人の活動では「想創Taiwan」というブランドを展開し、原住民レースなどでオリジナル雑貨を創作し日本各地の台湾関連イベントで販売。そんな中、在日台湾原住民連合会のダンスチームに誘われ、全身全霊で原住民文化を学び中。
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【参考サイト】
■原住民族族委員會
https://www.cip.gov.tw/zh-tw/index.html
■台北駐日経済文化代表処
https://www.roc-taiwan.org/jp_ja/post/202.html
■台東県政府 DiscoverTaitung
https://discover.taitung.gov.tw/ja/
■東部海岸国家風景区
https://www.eastcoast-nsa.gov.tw/ja/travel/culture
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